SSブログ

パット.マルティーノさんWorkshopの本質を考える [音楽雑感]


皆さん、こんにちは。今月はかなりてんてこ舞いなスケジュールになってますが、今日はちょっと時間が空いた。こういうときにブログですね。

さて、前回に引き続き、パットマルティーノさんのWorkshopのお話。今回はその内容について僕が感じたことを書きますね。

まず、前日にパットさん側からFundamentalsと称する書類が送られて来ました。最初、ちら見したときは「何だ、この難しそうな内容は。何でこんな図形ばっかり書いてあるの?」と思ったんですね。で、Workshop当日朝、ちょっと真面目に予習してみたんです。で、実はそんなに難しくなかった。ただ、一体何でこういう風に考えるんだろう?果たしてどういう意義があるのかな?と正直感じたわけです。

大雑把な内容はですね、彼はまず西洋音楽で基礎となる12音を時計のように考えます。それを3分割したのが長3度音程、4分割したものが短3度音程になります。前者は12音時計の中で12時、4時、8時の位置に来る正三角形になります(何故か12時の位置がE音)。オーギュメントですね。後者は12時、3時、6時、9時の位置に来る正方形になります。ディミニッシュです。

彼はこの12音と時計が作る図形の繋がりに世界に共通する符号のようなものを見出したのです。

パットさんは「私にとってギターが先生でありかつおもちゃである」と何度も仰いました。彼は、いわゆる基礎的な音楽理論のようなものから音楽に入ったのではありません。ギターを好き勝手にいじくっているうちにオーギュメント、ディミニッシュの分割をギター指板上で発見したのです。最初にそれを発見したとき、彼はその名前さえも知らなかったそうな…。そして、この2つのベーシックなものをちょっと変化させるだけで、色々なサウンドを出せることを見出したのです。オーギュメントをベースにしてメジャートライアド、マイナートライアドができる。ディミニッシュコードをベースにしてドミナント7th、マイナー7th(b5)ができる。つまり彼にとっては、最も基本的なコードとされるトライアドよりも何とオーギュメントの方が先なの!!

これには驚きでした。「自分はジャズインプロヴィゼーションの部屋にBack Doorから入った」、まさにその通りです。ギターというフィギュアを図形的に理解し、長3度音程と短3度音程のサウンドを発見した。そして、それは時計と同じ。ディミニッシュコードは東西南北のようなもの、こんな考え方を誰がするでしょうか(笑)??

そして、それを彼は「喜び(Joy)」とともに理解した。

この話は2時間近くに渡ったWorkshopの中でも半分以上占める重要なコンセプトでした。何度も弾かれるオーギュメントやディミニッシュコードの意味に困惑した学生もひょっとしていたかもしれません。でも、彼が執拗にこの話を繰り返すことによって、あることが僕達に伝わって来ます。彼は彼以外の誰でもないやり方で「世界を発見した」のです。彼は音と楽器(ギター)を通じて世界と通じたのです。その態度はもう子供のような、というか原初の創造欲求だと僕は感じました。

彼が長い時間掛けて言いたかったことは、「それぞれのプレイヤーにとって最も大切なことは、自分なりのやり方で理解する」ということだったと僕は思いました。つまりそれは、誰もが持っているBack Doorの部分なのです。

実はですね、パットさんほど徹底してはいませんが、僕もジャズインプロヴィゼーション修得過程は彼と似たようなやり方だったんですね。ラジオやレコードに合わせて演奏して、メトロノームなんか使わなかったし、最初、ウェスとかコピーしたときに一般的な理屈はまったく知りませんでした。でも、「メジャーキーなのにマイナーっぽい音使いかっこいいな…」とかね、後でジャズ研入ったら、先輩が「それはオルタードドミナントで…」なんて教えてくれたわけです。でも名前知らなくても僕は「知ってて」弾けた。僕はジャズのフレージングで一番それらしいのはIIマイナーのフレージングだと常々言って来ました(「ジャズギターの金字塔」や「ジャズの壁を超える100のアイディア」をご覧ください)。これはたまたまパットマルティーノさんのマイナーコンバージョンの考えと同じだったので、彼の方法にはすごく共感した。でもこれは特別なことではなくて、色々ジャズのコード覚えたらそういう理解に行くのは、ギタリストとしては自然なわけです。Abm6(9)とG7(#9,b13)はベースがなければ押さえ方同じですからね。それで、僕はサブドミナントIImとトニックメジャーIMとドミナントモーションV7-IMの3つのフレージングと考えた。パット大先生は何とそれを全部マイナーコード(7thかM7th、つまりドリアンかメロディックマイナー)で考えたってことですね。すげー一元論(笑)。とにかくワンアンドオンリーは間違いない。

これ、でもよく考えてみると、いまの時代に非常に難しくなっていることかもしれません。もうありとあらゆる教則本が出回り学校ではノウハウ的に教えたりする(自分も加担しておりますが…笑)。考えてみて、僕の時代はコピーをするとき、カセットを何度も巻き戻して止めた(これやってると止める技術が上がる。つまりリズムよくなる?…笑)。でもパットさんの時代にはカセットさえなかったでしょう。やっぱりいまのミュージシャンとは練習のやり方が根本的に違ったかもしれませんよね。

その情報のないことの利点はあったと思うわけです(実は濃い情報があったとも言える)。あまりのたくさんの情報は情報ないのと同じことですから(すべて等質化しますからね)。

パットさんのお話は1時間15分あたりで、ようやくマイナーコンバージョンになりました。彼のオリジナル曲譜面を見ながら、彼のインプロヴィゼーション解釈の説明を聞きました。ホントに全部マイナーコードで考えている。ジャイアントステップスは演奏するのが怖かったけど、マイナーコードに置き換えることによって演奏できるようになったとも仰ってました。ちょっと断片を演奏するんだけど、これがカッコイイのなんの(笑)。

1時間半経って学生との質疑応答。よかったのは、「音楽を職業とするかしないかにかかわらず、音楽を通じてコミュニケーションすることの喜びを知って欲しい」というようなお話があったこと。「ギターが君たちと僕を繋げた」というような発言もありました。人間存在として素敵でしたね。僕も実は質問したかったんですけど、まあ学生を差し置くわけにはいかない(苦笑)。記憶を失ってから、まったく同じような過程で練習したのか?というようなことがちょっと疑問でした。一度まったく「無」になって再びオーギュメントやディミニッシュを発見したのか?というようなことです。たぶんそうなんだろうな…。

正門でお迎えしてからWorkshopまでの時間、終わってからお見送りするまでの時間に色々とお話をすることができました。人間存在そのものにオーラがありダンディーそのもの。心洗われる出会いでありました。

また奥様あやこさんもWorkshopではギタリストとしてサポート。大変仲睦まじい御夫妻ぶり。日本人同士のカップルにはあまりないことかもしれませんね(因にあやこさんは日本人です…笑)。

で、校舎の前で写真撮影させて頂きました。

SN3G0288.jpg



パットさん、あやこさん、どうもありがとうございました。




Creative Force [DVD] [Import]

Creative Force [DVD] [Import]

  • 出版社/メーカー: Alfred Pub Co
  • メディア: DVD



nice!(1)  コメント(3)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 3

ほ~み

わっ、こんなことを、うちでシャワー上がりにお酒を頂きながら、くつろいで聞いて、じゃない読んでしまっていいのだろうか、と感銘を受けております。 ぬのさんのブログは今後素面で正座して読まないと・・・。
by ほ~み (2010-11-13 21:53) 

dacksfield

> 彼は彼以外の誰でもないやり方で「世界を発見した」のです。
> 彼は音と楽器(ギター)を通じて世界と通じたのです。

> 「ギターが君たちと僕を繋げた」

ず〜んとズッシリと重くて深い言葉です。 真理だと感じます。

いろいろと思うことがありますが、上がそれを言い当てています。
by dacksfield (2010-11-13 23:00) 

ぬのさん

おはようございます。今日は午前中羽田から出雲に行くので早起きです。

ほ〜みさん、お久しぶりです。僕も非常に感銘を受けました。こういう企画を大学でもっとやれたらいいんですけどね。

dacksfieldさん、送られて来たプリントは図形の嵐(笑)。オーギュメントの三角形の1つの頂点を左にずらすとメジャートライアド、右にずらすとマイナートライアドとかね。大発見だったんだろうなあ(笑)。運指関係は簡単なサブドミナントのメロディー(フレーズ)をすべてのポジションで弾くとかね(これはプリントに書いてあった)。
by ぬのさん (2010-11-14 06:32) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。